Grinding Technology Japan 2023(GTJ2023) 2023年3月8日(水)~10日(金) 幕張メッセ 展示ホール8

前回開催時に感じた確かな手ごたえ
会場各所で見られた「技術者の真剣勝負」

公益社団法人 砥粒加工学会 会長/
三井精機工業(株) 常務取締役 向井 良平(むかいりょうへい)氏

1981年 明治大学大学院工学研究科博士前期課程修了
1981年 豊田工機(株)(現:(株)ジェイテクト)入社
研究開発部門で研削加工、研削盤、研削砥石の開発業務に従事
同社技術研究所加工技術開発室長
2001年 同社グライディングマシン標準機部長
2005年 (株)豊幸 取締役 同社代表取締役社長
2019年 三井精機工業(株)常務取締役 現在に至る
2018年~ (公社)砥粒加工学会会長
2019年~ (公社)精密工学会 超砥粒ホイールの研削性能に関する研究専門委員会委員長

技術者が「話していて面白かった!」と思える展示会

 今年3月に行われる「Grinding Technology Japan」は、今回が2度目の開催となります。我々も前回は出展者の立場として、ジェイテクトの仲間と一緒に出展しましたが、「研削の専門家が、具体的な課題を解決する場として来場される」展示会となっていたことに、大変驚かされたのを覚えています。
 もともとドイツの展示会を参考に開催されたということで、日本でも専門性の高い、密度の濃い展示会になればと期待はしていたのですが、それが第一回目から実現したことには、素直な驚きと興奮とがありました。やはり「ぜひ日本でもそうした展示会を」と思われていた多くの方の思いが、図らずも一致した結果かもしれません。
 通常の展示会ですと、取引先へのご挨拶や業界の動向調査、といった形で来場される方も多いのですが、前回は当社のブースでも少なくとも数社は来場された段階で具体的な検討などが行われていて、実際にご購入まで進んだ話もありました。そういう意味では会社としても、ビジネスチャンスになる部分が多かったと思いますし、なにより話をしていて面白かった! 会場には研削の相談に応じる「研削コンシェルジュ」の方がいらしたのですが、中には手に負えないほど高度な質問なども出たようで、私も一度コンシェルジュの方に引っ張り込まれまして(笑)、机の上に図面を拡げながら、ああでもない、こうでもないと意見を出し合った場面がありました。

説明員も、第一線の技術者でなければ対応しきれない!?

 このように楽しく、また研削技術者の真剣勝負のようなところもあった展示会でしたが、そのためか終了後の反省会では「応対する説明員も、営業の人間ではなく技術者を連れてこないとダメだ」という話が出ていました。
 これは私も同感で、やはり今のように世の中が大きく変わっている時は、各社が生き残りをかけて試作をしたり、新しい技術に挑戦しています。でも自分たちだけではなかなか難しいので、助けてくれる仲間を探したいというニーズは出てきているようなんですね。中には名だたる企業の方が、図面をもって訪問された例もあるようです。ですから出展される企業さんは、たった3日間のことでもありますので、各社一線の技術者、会社の一番の顔になる人をぜひ配置していただきたい。そうすれば各企業の本気度や魅力を来場者に伝えられると思いますし、展示会自体もより優れた特徴が際立った、研削業界全体の財産となるものへ育っていくように思うのです。
 今はコロナ禍ということもありますので、なかなか自由に見て回るというのは難しいかもしれませんが、その中でも洗練された会になるのではないかと期待しています。

砥粒加工学会「先進テクノフェア」同時開催も実現

 砥粒加工学会の会長の立場としては、第一回目の企画段階から学会としてしっかり協力させていただけたことを、大変うれしく思っていますし、また感謝したいと思っています。講演会やコンシェルジュ、また実演コーナーも含めて、多くの学会関係者にご活躍いただけましたし、また学校の研究室からも相当数のご協力をいただきまして、いつも以上に研究室紹介、研究テーマ紹介が盛り上がりました。
 そして今回はさらに、砥粒加工学会の2番目に大きなイベントであります「先進テクノフェア」(ATF)をぜひ会場にて行いたいと要望していたところ、それが実現する運びとなりました。
 砥粒加工学会というのはもともと、昭和30年代初頭に、研削の大御所であった熊谷直次郎先生や小林昭先生が、研究者もメーカーもみんな仲間になって研削加工の発展に取り組もうと始めた研究会が母体になっています。ですから敷居の高い学会ではなく、もっと産官学が一緒に何かに取り組める学会にしたいのです。たとえ小さな仲間でも、いろんな議論をしたり見せ合ったり、失敗談を語り合ったりすることが大切だろうと思いますし、そのための入り口としてこのような展示会があるのは、この上もなくありがたいことなんですね。
 今回は清水伸二先生を中心に、研削盤メーカーの技術者によるパネルディスカッションも行われますが、この展示会は課題解決の展示会ですから、今後はメーカー、ユーザー、研究機関が入り混じった形でどんどん発展させていけば面白いと思います。ただし出来レースにはしたくないので、逆に会場から「私のところも困ってるんですよ!」なんて話が飛び出してくれば、より面白い議論につながると思います。

「必要な精度を確実に出せる技術」にさらに磨きを

 さて、最近の砥粒加工を取り巻く状況ですが、工作機械メーカー側からすると、研削盤でなければできなかったものが、マシニングセンタでも十分できるようになってくるなど、両者の境目がだんだんなくなってきている感はありますね。とはいえ、これからは付加価値の高い加工しか日本に残らないでしょうから、そのときに勝負所となるようなレベルで、“正しく形状を作る”、“正しく面性状を作る”ことを考えますと、必ず時間軸に対して刃が摩耗する切削では難しく、やはり最後は研削に軍配が上がると思うのです。
 そういう意味では今後も研削の役割は大きいけれど、研削は研削で、たとえば「表面粗さが同じでも、見た目でいろいろな干渉縞ができてしまう」といった課題もあるわけです。形状精度や静的精度も全く問題ないし、機械の性能はむしろ上がっている、しかしそれでも「古い機械だと出せる面が、今の機械はなぜ出せないのか」といった話もありますから、そこには何かがあるはずです。今はまだ解明できていませんが、今後はそういった部分にも目を向けていくべきだと思っています。
 そう考えるとこれから大切なのは、必要な機能、必要な精度を確実に出せる技術だということですね。そしてそこから高付加価値の加工として、たとえば厨川常元先生がやっておられるような機能的なマイクロテクスチャを実現する技術、これはレーザーなどの領域かもしれませんが、そこを研削でも狙っていくべきかと思います。今のものづくりは塑性加工もあるし、AMもある、また除去加工やレーザーもあるといった具合で、いろいろな要素を複合的に考えて行く必要があります。表面を任意の形に変えられる、それが当たり前のようになってきているのなら、それをいかに安い加工に置き換えていけるかが、我々の課題であろうと思います。
 そのためには回転軸、直線軸などの誤差は限りなくゼロにする、砥石の管理を高めていくなど、武器である工作機械の方も、またしっかりしていかなければいけないと思いますね。そしてさらには砥粒一個一個のコントロールが必要になりますから、東大の谷泰弘先生が以前行われていた、「電気泳動現象を利用した超微粒砥石」のような研究が、また注目されてくるかと思います。

(向井氏へのインタビューより構成 「機械と工具」大喜 康之)